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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)436号 判決

被告人

犬飼一郞

外一名

主文

原判決を破棄する。

本件を岐阜簡易裁判所に差戻す。

理由

弁護人中山武雄の控訴趣意

記録に基き審按するに原判決書の記載によれば、原審は本件犯罪の証拠として

一、被告人両名の公判廷に於ける自供

二、岐阜県知事武藤嘉門の告発書

三、被告人両名の警察署に於ての供述調書

を挙示して居るが右の中二の告発書を除いては総て被告人の自白のみであるから唯一の傍証とも謂うべき前記告発書に就て看るに右は訴訟条件として取扱う場合には裁判所の自由な心証に依り真正に成立したものと認めるときは別段証拠調の手続を要せずして之を採用することができるが、犯罪事実認定の資料として採用する場合に於ては刑事訴訟法第三百五条の規定に従い証拠調を為し、且つ同法第三百二十一条以下に準拠して其証拠能力を確めた後でなければ採用することができないものである。依つて原審公判調書を通看するに、第一囘公判調書の記載に依れば原審検察官は右告発書を証拠として提出せんとしたところ被告人弁護人の同意を得られなかつたので裁判所は証拠調をなさなかつたことが認められ他に右告発書に就き適法な証拠調をなした旨の記載が無い。即ち右告発書は犯罪事実認定の資料としては之を採用することができないものであるに不拘、原審は右書面を証拠とし、以て被告人に有罪を宣したのは明に採証法則に違反すると謂わなければならない。而して右の違反は結局に於て被告人の自白のみに依り有罪の認定をなしたことに帰着するから素より判決に影響することが明である。

即ち以上の点に於て原判決は既に破棄を免れない。

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